InDesign CS2になり、[環境設定]の[組版]パネルに[CIDベースの文字組みを使用]という項目が追加されました(下図参照)。
この項目はデフォルトではオンに設定されており、ヘルプには以下のように記述されています。
Unicodeの代わりに使用されているフォントの字形を使用する正確なJIS X 4051文字組みクラスを決定するには、「CIDベースの文字組みを使用」を選択します。OpenTypeフォントを使用している場合に、このオプションが便利です。この機能では、AdobeJapan1-0~AdobeJapan1-6のすべてのCIDフォントがサポートされています。Unicodeは、他のすべてのフォントで使用されます。
ちょっと分かりにくい日本語ですが、実際にこの項目がオンの場合とオフの場合でどのような違いがあるかを、以下のサンプルを元に試してみたいと思います。
さまざまなフォントを使用し、CID番号とユニコードは上図のものを使用したサンプルを作成しました。また、OpenTypeフォントを使用したサンプルの鍵括弧は、CID: 12070と12071のものに字形を変更しています。
※コード番号があると図がちょっと見づらいのでコード番号を非表示にしたものを下に用意しました(上図と同じものです)。[CIDベースの文字組みを使用]はオンで、文字組みアキ量設定には「行末約物半角」を使用しています。
[CIDベースの文字組みを使用]をオフにしたものが下図です。
図を見比べただけでは、ちょっと分かりづらいかも知れませんが、
CID: 108と122のダブルクォーテーションは、[CIDベースの文字組みを使用]がオンの時は、文字クラスが「欧文」として文字組みされますが、[CIDベースの文字組みを使用]がオフの時は、「括弧類」として文字組みされます。
※同じユニコード番号でも、CID: 672と673のものでは変化がありません。
また、CID: 12070と12071の鍵括弧は、[CIDベースの文字組みを使用]がオンの時は、文字クラスが「括弧類」として文字組みされますが、[CIDベースの文字組みを使用]がオフの時は、「上記以外の和字」として文字組みされます。
つまり、[CIDベースの文字組みを使用]がオンかオフかによって、どの「文字クラス」に属するかが変わり、文字組みが変わってしまう字形があるわけです(ユニコード番号が同じでも異なるCID番号を持つ字形では、[CIDベースの文字組みを使用]がオンとオフの場合で、文字組みが変わるケースがあります)。なお、この機能はAdobeJapan 1-xのフォントに対してのみ適用されるそうです。
※JIS X 4051は、ユニコード番号が1つでCID番号が複数あるケースの場合、全角(または半角)のCID番号を持つ字形を優先し、プロポーショナルな字形を考慮していないそうです。それを解決するために導入されたのが『CIDベースの文字組み』です。例えば、以下のようなケースにおいて、[CIDベースの文字組みを使用]をオンにすることで文字クラスが変更されます。
- [OpenType機能]による字形の切り替えで文字クラスが異なるべきケース(palt, dlig等)
- [OpenType機能]による字形切り替え時のツメの変更(括弧類の場合、規格に沿うために全角字形を半角にするツメ等)
なお、[CIDベースの文字組みを使用]の設定はドキュメント依存になるため、異なる設定の環境で開いても問題ありません。また、InDesign CS以前のドキュメントをInDesign CS2で開くと、[CIDベースの文字組みを使用]はオフでコンバートされます。
(補足)
OpenTypeフォントは、フォント内にユニコードとCID番号のCMap(対応テーブル)を持っています。例えばモリサワのAdobe 1-4仕様のProフォントはUnicode 3.0を使用していますが、JIS X 0213-2000の策定により標準字形の見直しが行われたため、Adobe-Japan 1-5仕様のProフォントではUnicode 3.2が採用されました。そのため、Adobe-Japan 1-4仕様のProフォントとAdobe-Japan 1-5仕様のProフォントでは異なるCMapを持つことになり、Adobe-Japan 1-4から1-5へフォントを変更した際に、一部字形の相違が生じます。
※CIDとは、CIDフォントのことではなく、Adobeが策定した各文字を識別するためのコードです。ユニコードでは、異なる字形であっても同じユニコード番号を持つものは存在しますが、CID番号では字形が異なれば異なる番号が割り振られています。つまり同じCID番号の字形は2つ以上存在しないわけです。