今回のDTPの勉強部屋は組版特集でお送りしました。Session 1では出版デザイナーの大熊肇さんが、組版の悪い例と良い例を比較するビフォー・アフター形式のプレゼンテーションをされました。Session 2では「なんでやねんDTP」の大石十三夫さんと「大阪DTPの勉強部屋」を主宰される宮地知さんのお二人が「漢字の字体」と「組版の禁則処理」の講義をされました。今回も開催日の2週間以上前に満席となり、懇親会にも多数の方にご参加いただくことができ、大変な盛況をいただくことができました。
Session 1:「文字の組み方―組版/見てわかる新常識」
スピーカー:大熊肇氏(出版デザイナー、有限会社トナン、tonan's blog)
出版デザイナー大熊肇さんの執筆により『アイデア』や『デザインノート』を発行する誠文堂新光社から発売された、同名の書籍の内容を中心とした発表でした。
「書体によって字体は違って当然なものである」「筆の流れを知ると文字のデザインが見えてくる」「DTPで実現できることは、過去に縛られずに実践した方が良いこともある」という、DTPでの組版の新常識を示唆する画期的な内容となりました。
また、大熊さんの講演は先に開催された「PAGE2010」デジタルワークフロー・ソリューションZONE(YUJIさんプロデュース)でも好評を博し関東や関西から20数名もの方が来場されました。
勉強会では、書籍の中の「タイトルや見出しについて」「和文本文組み」「欧文本文組み」「和文に欧文が混ざった場合」「資料」という5章の中から、「タイトルや見出しについて」「和文本文組み」の2つにポイントを絞り解説されました。
前半の「タイトルや見出しについて」では、文字間の詰め、ルビ、約物、和文フォント、字体、欧文フォントについて解説。後半の「和文本文組み」では、版面設計、ぶら下げ、丸.弧の扱い、字詰め、文字サイズ、ウィドウとオーファン、行末行頭の処理、プロポーショナル詰め、見出しの作り方、約物の誤用、ルビについて解説されました。
合計40もの事柄を、悪い例と良い例を比較するビフォー・アフター形式でテンポよく紹介されました。加えて「号数システムのルビサイズ」「美華書館の活字サイズ」など、当勉強会で初めて発表された書籍外の内容もありました。
印刷史、書道、ビジュアルデザイン、言語学、認知心理学などの知見が織り交ぜられ、筆脈、美華書館、本木昌造、築地活版、説文解字、康煕字典、佐藤敬之輔、オックスフォードルール、シカゴマニュアル、速読テストなどといった専門用語も行き交う、第一線の文字と組版の世界が紹介されました。
会場では、筆の流れを意識した文字間詰め、ルビの扱い、欧文フォントの4ラインと5ラインの設計の違い、行長のバランス、約物の扱いや誤用などが注目を集め、あるあるという声や、かっこよく仕上がった組版に対して感嘆の声が全編で聞かれました。
プチセッション:
今回で2回目となるプチセッションには7名の発表者が集まり、それぞれ4~5分の持ち時間の中でTIPSの披瀝や自己紹介をしていただきました。
スピーカー:杉山元康氏(FeZn.com)
ご自身が開発を続けている、「編集尺」を紹介されました。ポケットに入れて持ち歩けるクレジットカードサイズの紙面に、編集者にとって必要な目盛り・線幅・アミ点などのスケールが無駄なく収められた便利なもので、ノベルティーとして配布し会場から喝采を浴びました。
スピーカー:藤林朋実氏 (朋茶的ブログ)
Acrobat 8以降に実装された「共有レビュー機能」を利用した校正方法を紹介されました。準備期間から運用時にかけてのトラブル事例と、誰がいつどんな根拠に基づいて修正指示を出したのかという詳細な履歴が残ること、そのため不明点の問合せ等がスムーズに行えるというメリットを解説されました。
スピーカー:坂口礼治氏(株式会社ケーエスアイ)
Illustratorによるデータ作成時に、初心者だけでなく時にはベテランでさえ陥りがちな注意点について、具体例を挙げて解説されました。また入稿時のチェック方法として、Acrobat 7以降に実装された「出力プレビュー機能」を用いたチェック方法を実際にデモンストレーションし、その有用性を解説されました。
スピーカー:横山裕司氏(株式会社ケーエスアイ)
新人として自己紹介をされました。仕事の楽しさ、勉強会の素晴らしさについて語られ、参加者に清々しい感動を誘いました。
スピーカー:浅田正洋氏(Cross the Sea)
InDesign CS4から実装された「IDML」を紹介されました。「IDML」の可能性について、従来の自動化ツールであるJavaScriptやAppleScriptと比較しつつ、その画期的さを解説されました。また、ご自身が管理人を務める「IDML Wiki」において、これまで英語版しかなかった「IDMLマニュアル」を有志により日本語に翻訳し公開されたという情報もアナウンスされました。
スピーカー:的場仁利氏(文字エンジニア)
「文字」と「色」には印刷に携わるものでなければ作れない高度なものがあるとし、「『文字』を売りに、高価格・高付加価値戦略を行おう」というアグレッシブな講義をされました。「文字」に関連する多くのビジネスチャンスを紹介し、Win-Winを目指そうという提言をされました。「衰退産業を恥じることはない」とのフレーズが大変印象的でした。
スピーカー:尾花暁氏(あかつき@おばなのDTP 稼業録)
東京でご自身がオーガナイズする「DTPの勉強会 第0回」の告知をされました
Session 2:「InDesignの『字形切り替え』と『禁則処理方式』を中心に」
スピーカー:大石十三夫氏(なんでやねんDTP)、 宮地知氏(WORK STATIONえむ、大阪DTPの勉強部屋)
大石さんの解説に合わせて、宮地さんがInDesignを操作する形で進行されました。お二人の呼吸もぴったりで、ユーモアのある掛け合いもあり、「漢字の字体」と「組版の禁則処理」という高度で繊細なテーマを楽しく魅せた、「ライブ感覚」の講義となりました。
前半では出版物の字体使用の実情に応えるための「字形切り替え」についてお話しされました。また、国語施策、人名用漢字、JIS規格の密接な関係についても詳細に解説されました。
出版物では「歌集では全体が旧字体のものもある」「一般的には『常用漢字』と『印刷標準字体』を用いている」という状況を紹介。更に、「表外漢字字体表」などを根拠とし、 デジタルフォントで一般的に表示される「拡張新字体」を使用しない合理性を解説され、「テキストデータは『常用漢字表』の中の文字しかプロには使えるものではない」ということを訴えられました。
出版業界では比較的安定した字体の運用がなされている一方で、「我々DTP関係者がJIS一辺倒になっており、混乱の原因を作っている」という問題を提起されました。そして「変換の必要はあるが、OpenTypeフォントの豊富なグリフを用いて字体を適切に使いこなそう」という提案をされ、InDesignの字形タグに頼らないスクリプトを用いた効率的な字体変換のテクニックを披露されました。
後半はInDesignでの「禁則処理方式」に関して、CS2以降に搭載された「調整量を優先」を利用することを提案されました。
従来の「追い出し優先」や「追い込み優先」では行頭/行末禁則文字がなければ調整をしない仕様でしたが、「調整量を優先」を使えば行頭/行末禁則文字の有無にかかわらず字間を調整してくれるという優位性を紹介。「文字組アキ量設定」において仮名の文字間にマイナスの最小値を設定し、優先度を上げることでより緻密な調整が実現できることも併せて紹介されました。
ただし、優先度を上げると文字間を詰める場合だけでなく空ける場合も優先されてしまう点にも言及し、注意を促されました。
なお、大石氏がフォローアップ記事をご自身のブログで公開されておりますので、ぜひ参考にしてください。
DTPの勉強会にご参加された皆様へ
http://d.hatena.ne.jp/works014/20100215
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レポート:壱岐孝平、的場仁利
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