2016年5月21日(土)、「第40回勉強会」が名古屋のウインクあいちで開催されました。今回は「10周年記念」として、いつもと違いスピーカーの人数も多く、時間も長い構成となりました。そのため、ここ数年では出席者の数が最も多かった印象です。
最初はKeynote Sessionとして、グラフィックデザインの仕事の傍ら、DTP黎明期からいち早く仕事にMacを取り入れ、雑誌などでレポートを執筆されてきた菊池美範さんの、80年代からはじまるDTP環境についてのお話と、デザイナーの仕事形態についてのお話。
次が、Illustrator Sessionとして『10倍ラクするIllustratorの仕事術』やDTP関連のセミナーの講師としておなじみの鷹野雅弘さんの、Illustratorのアクション・スクリプトなどについてのお話。
Photoshop Sessionは、『Photoshop10年使える逆引き手帖』などの執筆や、Photoshop関連のセミナー講師などをされている藤本圭さんによるPhotoshopの学び方についてのお話。
InDesign Sessionは、本セミナー『DTPの勉強部屋(名古屋)』を主催するデザイナーのYUJIさんによるInDesignの時短テクニックについてのお話。
そして最後はAdobe Sessionとして、アドビ システムズ株式会社より、岩本崇さんのCreative Cloudについてのお話でした。
すべてのSessionの終了後は、恒例の「じゃんけん大会」がありました。今回は10周年記念で賞品の数も多く、いつも以上の賑わいを見せていました。

Keynote Session:デザイナーは『拡張し、集中』する。
スピーカー:菊池 美範 氏株式会社エイアールディー 代表)


この日の登壇者で唯一初登場の菊池さん。ご自身は熊本出身ということですが、愛知県の高校を卒業されていることもあり、名古屋に親近感を感じているそうです。80年代からDTPを導入し、長年グラフィックデザインの現場で活躍され、昨年は自身の会社の事業を清算。今はフリーに近い形態で、デザイナーの領域に留まらない様々な活動をされているそうです。
ここからメインの話としてDTP環境の話を、いくつかの時代の区切りに分けてご自身の体験とともにお話しになりました。「黎明期」は、Macintoshが非常に高価だったにもかかわらず、ほとんど仕事では使えなかった時代。「揺籃期」は、DTPソフトとしてQuarkExpressが普及しだした時代、InDesign 1.0が発売し、安定した環境が整いつつあった「成長期」を経て、どんどん便利になる反面、デザイナーの仕事領域が拡大し続けている「成熟期」といった流れがあったと説明されました。
そして、現在のようなDTP環境になるためにはいくつかの「ターニングポイント」があったといいます。それは「Quark Expressが日本で普及したこと」「Quarkと競合するPageMakerが限定的にユーザーを確保していたこと」「Quark Expressが4以降停滞したこと」「InDesignが台頭したこと」「フォントの年間ライセンス化の実現」「Adobe CSが標準化し、その後年間ライセンス方式のCCが普及したこと」などが挙げられるといいます。
次に「雑誌と書籍の日々」として、ご自身の主立った雑誌・書籍の仕事を紹介しながら、それぞれの時代・仕事におけるDTP環境のお話がありました。その中で、今でも自作のオリジナル「レイアウト用紙」を使用し、手書きでラフを描いているということが印象的でした。
最後に菊池さんの現在の活動を紹介されました。元々デザイナーは独立志向が強いため、現在のような手軽に揃えられるDTP環境においては、身軽なSOHOスタイルの方が合っているとのことです。そのようなスタイルで菊池さんは、これまで培った人脈を活かし、製品開発に関わったり企業のブランディングを行っているといいます。そして、デザイナーやDTPオペレーターの技能は、社会に必要としている人が沢山いるため、社会に貢献し、奉仕する心が大切だと感じているのことです。菊池さんは出身でもある熊本の震災復興のボランティアに積極的に参加され、新しい発見があったりと充実した日々を送っているといいます。

Illustrator Session:アクションとスクリプト、さらなる活用のポイント
スピーカー:鷹野 雅弘 氏株式会社スイッチ 代表)


いきなりオマケ「グループの抜き」からはじまった鷹野さんのセッション。今回のテーマは「効率アップ」ということで「時短」を実現するための様々な方法を紹介していただきました。
まずは文字入力という誰もが行う作業の効率化。単語の打ち間違いを減らすための単語登録や、入力をしやすくるキーボードのカスタマイズの他に、括弧類を組み合わせた文章を入力する時の手動動作を減らす「Keyboard Maestro」というアプリケーションのマクロを紹介されました。
そしてIllustratorでは「キーボードショートカット」「アクション」「スクリプト」「アクションとスクリプトの合わせ技」を解説。キーボードショートカットはデフォルトからのカスタマイズを推奨。InDesignやPhotoshopと揃えて、繰り返し操作して体で覚えることを勧められました。アクションは、定形作業を記録して実行できることに加え、アクションにキーボードショートカットを当てられることも説明。そしてスクリプトは、鷹野さんのおすすめするスクリプトのいくつかをデモ。それ以外にもレジュメに概要つきで紹介されていました。さらにアクションとスクリプトの合わせ技として、スクリプトからアクションを呼び出す方法を紹介。アクションに記録できない動作(アートボードを選択オブジェクトに合わせるなど)をスクリプトで動かししつつ、他の動作をアクションで補完するデモもありました。
今回の鷹野さんのセッションでは、冒頭にワークとしてどんなタスクに時間をかけているのかを会場に問いかけ、一緒に考える時間がありました。そのワークでは、総合時間は細かいタスクの積み重ねによって成り立っていること。どんなタスクがあるか棚卸しをし、時間がかかっていたり、負荷の多い作業を洗い出すことのヒントになりました。そしてその作業の見直しや便利なツールを使用した改善を行い、一つ一つの効率アップ技を組み合わせることで、確実に総合時間の時短に効いてくるということがよく分かるセッションだったと思います。

Photoshop Session:歴史から紐解く、Photoshopの効果的な学び方
スピーカー:藤本 圭 氏株式会社テイク・フォト・システムズ 代表)


今回は初心者の参加者も多いと思い、長く実践できる普遍的な内容を考えた結果、「効率的な学び方」というテーマになったそうです。藤本さんの会社では、Photoshopを使用するときに、社員に「調整レイヤー」などの便利な「後から編集可能なツール」の使用を禁止しているといいます。その理由は、Photoshopを「効率よく習得するため」とのこと。後からやり直せると、覚えるのに時間がかかるからだそうです。
まずは、「Photoshopの歴史から見る方向性」として、バージョン1.0から7.0までの機能面での強化、CS2以降の自動化と非破壊編集の追加といったおおまかなバージョンアップの方向性をおさらい。
その後、実際に画像データを開いてデモを行いました。非破壊編集は便利な反面、操作手順が多くなったり、設定内容のより深い理解が必要になったりと問題点も多いといいます。ここでは「仕上がりの目標を決めてから作業する」ことが重要であると強調されました。
次に「Camera Rawフィルタ」を用いたデモ。「Camera Rawフィルタ」はPhotoshopと基本的な機能は同等でありながら、おおまかな作業はこちらの方が向いているとのことでした。そして設定値が保存できることも、便利な点だといいます。しかし、沢山の画像を効率よくレタッチする場合は、Lightroomを使用した方がよいとのことです。
最後に、Photoshopの習得への近道は、編集不可の作業をすることと、何度も反復して覚えることの2点が重要ということを強調されました。

InDesign Session:時短のための神速InDesign
スピーカー:YUJI 氏InDesignの勉強部屋


今回のYUJIさんによるInDesignのセッションは、作業のたびに必要になっていたひと手間を無くして時間を短縮する、いわばInDesignを最速作業用にカスタマイズし尽くすという内容でした。
まずは「アプリケーションデフォルト」のカスタマイズ。ドキュメントを開いていない状態で行った設定は新規ドキュメントを作成する際に適用されるので、よく使う設定を予め行っておくとスムーズに作業を開始できることを説明。
次に、すぐに使えるようにあらかじめ用意しておく設定として、スウォッチやスタイル、文字組アキ量設定があげられました。良う使う設定として、色の濃淡や文字ツメのパーセンテージごとの文字スタイルを用意したり、罫線の幅や角丸のサイズでオブジェクトスタイルを作っておくことで、パネルから数値を調整する必要がなくなります。文字組アキ量設定はカスタマイズ例として大石さんの設定ファイルのダウンロードページへの案内もありました。さらに、書き出すPDFの仕様別に保存できるPDF書き出しプリセット、よく作るサイズが保存できる新規ドキュメントのプリセット、キーボードショートカットを他アプリケーションと合わせるなど少しの手間や判断する時間を出来る限り省いていくための仕組みが紹介されました。
既存機能の次に紹介されたのは、拡張機能をダウンロードできるAdd-ons。これはAdobeサイト内で提供されているAdobe製品で使える機能が追加できるサービスで、例として「Long Document Panel」がデモされました。さらにスクリプトの解説では、サンプルとして入っている便利なスクリプトの紹介と、InDesignの配置画像を適正な解像度へリサイズする「shag(仮称)」の紹介があり、「shag(仮称)」のデモですべての画像がリサイズされたのを見た参加者からは驚きの声があがっていました。
基本設定のカスタマイズ、よく使う設定の保存で足回りを盤石に固めつつ、拡張機能やスクリプトでさらにスピードを上乗せ。まさに神速への道が切り開けたセッションでした。

Adobe Session:Creative Cloud使っていますか? 〜便利なサービスと互換情報〜
スピーカー:岩本 崇 氏アドビ システムズ株式会社


おなじみ、Adobeの岩本さんによるAdove Creative Cloud(以下CC)の紹介。CCとしてリリースされてから今年で4年になり、現在も様々な進化を続けているといいます。まずはAdobe CCの基本的な特長の説明。CCになってからの特長として「複数のバージョンが使用できる」「Mac/Windowsの切替が可」「初期費用が安く導入しやすい」「フォントやストレージなどの多彩なサービスが利用できる」ことが挙げられるといいます。特にフォントサービスである「Typekit」には、昨年からモリサワやタイプバンクなどの書体も追加され、日本語書体は計34書体となり、より魅力的なサービスになったとアピールされました。ちなみに、Typekitのフォントは、モリサワパスポートのフォントとの互換性を有しているとのことで、取引先などとのデータのやりとりにも安心とのことでした。他にも5000万点以上の高品質なロイヤリティーフリー素材が利用できる「Adobe Stock」などの紹介がありました。
データ運用の安全面では、Photoshop、Illustrator、InDesignで「自動バックアップ機能」があるために、万が一シャットダウン等のトラブルに見舞われても、安心とのことです。その他に、各データの制作バージョンの確認方法、「パッケージ」機能を使用するときの注意点、互換性についての各アプリケーションにおける注意点などのお話がありました。
全体として、信頼性と導入のしやすさなど、数々のメリットがあり、「まだ未導入の方は安心してCCに移行してください」と締めくくられました。

レポート:加納 佑輔・吉岡典彦