今回のDTPの勉強部屋は、Adobe Illustratorのアピアランスとブックデザインの2つのテーマで開催いたしました。
Session 1では、DTPデザイナーをされる一方、山口県で開催されている勉強会「Yamaguchi DTP Bee」に関わっていらっしゃる茄子川導彦さんから「アピアランスを使って、イラレDTPを少しでもラクに」として、Illustratorのアピアランスによる効率化をデモを中心に解説していただきました。
Session 2では、年間200冊もの書籍のデザインを手がけていらっしゃるwelle design株式会社代表の坂野公一さんから「ブックデザインのプロセス─Adobeアプリケーションを使ったブックデザインの実例紹介」として、過去の作品を事例として、その制作方法を披露していただきました。
また、プチセッション拡大版にアドビシステムズの岩本崇さんにご参加いただき、ご自身のブログ「いわもとぶろぐ」から注目の情報と、Adobe Creative Cloudについてご発表いただきました。
加えて、会場に『文字の食卓』で注目の正木香子さんによるエッセイの組継ぎ本小冊子『花火の文字』に関わられた宮地知さん、大石十三夫さん、結城しおり(大倉壽子)さんらがいらっしゃり、組継ぎ本の実演も行われました。
Session 1:アピアランスを使って、イラレDTPを少しでもラクに
スピーカー:茄子川導彦氏(Yamaguchi DTP Bee、ADAM/DTPデザイナー)
Session 1では、Adobe Illustratorに関する高度なテクニックをウェブで公開している、DTPデザイナーの茄子川導彦さんに、アピアランス機能を使ったDTP作業の効率化テクニックを解説していただきました。
まずは、Illustratorの「アピアランス機能」の一般的なイメージとして「おもしろい機能」という程度の認識が多いが、実際にはDTP作業において、作業時間を大幅に短縮することができる非常に実用的な機能であると説明。実際の作業を、デモンストレーションととも作例を公開していただき、さらにそれらのテクニックを登録し以後の仕事に流用することで、時間短縮ができるという説明をされました。
具体的な内容としては、架空のクーポン券付きチラシを例に、そこで使われているアピアランスを駆使したテクニックを一つひとつ解説されました。チラシの安売り価格表示などで多用される「重ね数字」の作り方をはじめ、四角形のオブジェクトに布のテクスチャを適用する方法、通常の線を糸で縫ったように
見せる効果、「ふっくらした」文字の作り方、数字に自動的に×印を付ける方法、3D効果を利用したパッケージ画像のマッピング、加工しやすい吹き出しの作り方など、次から次に公開されるテクニックに会場は圧倒されました。
さらに、これらの効果は「グラフィックスタイル」に登録することで、他のデザインにも簡単に適用でき、なおかつ編集・調整ができるため、汎用性にも優れていることを強調されました。
最後に、新規ドキュメントに打ち込んだプレーンな文字に、これらの登録された効果をほぼすべてワンクリックで文字に次々に適用していき、一瞬にして文字が装飾加工されている様は圧巻でした。
プチセッション:
今回も3名の方と、拡大版としてアドビシステムズ様からAdobe Creative Cloudのご発表をいただきました。
スピーカー:朋ちゃん氏(朋茶的ブログ)
「検索のススメ.Acrobatの活用」として、Adobe Acrobatの検索機能に特化して紹介されました。高度な検索機能があり、Acrobat X以降では検索結果の保存もでき、現在開いている文書だけではなくハードディスクやサーバー内の検索ができとても便利だと解説されました。Acrobatを使った校正の参考文献として、(一財)テクニカルコミュニケーター協会の『PDF電子校正ガイドライン第3版』を紹介されました。
⇒PDF電子校正ガイドライン第3版
スピーカー:鳥居建従氏(編集プロダクション勤務)
編集プロダクションにてPhotoshopや色彩関係の編集・執筆をしてきた経験から、「ディスプレイの表示と印刷物の色合わせ」として、色環境の整備についてお話されました。ディスプレイの色と印刷物の見え方は環境によって異なる場合が多いとして、自ら発光するディスプレイの色、光を反射して見る印刷物の色、環境の色温度と演色性など、それぞれの性質と合わせ方を説明され、ディスプレイのキャリブレーター(測色計)導入などを紹介されました。
スピーカー:宮地知氏(大阪DTPの勉強部屋、WORK STAIONえむ)
新刊『神速InDesign』の共著者で、「大阪DTPの勉強部屋」を主宰する宮地知さんが接着剤や金具を使わずにできる製本方式「組継ぎ本」について紹介されました。
前田年昭さんが提唱する、本文を印刷した紙だけで製本ができる「組継ぎ本」。その作り方と、小部数であれば手軽にできることや真っ平らに開くことができる等のメリット等を紹介され、「おもしろいアイデア」として利用の呼びかけと改善策の募集を呼びかけられました。
⇒前田年昭氏 ラインラボ
⇒ラインラボ/書庫:DTPの技術とワークフローを考える
スピーカー:岩本崇氏(アドビシステムズ株式会社)
今回もプチセッション拡大版として、アドビシステムズの岩本崇さんがAdobe Creative Cloud(以下Adobe CC) の情報をご発表されました。
アドビシステムズのAdobe IllustratorやInDesign等のデザインマーケティング担当者としてユーザーのための情報をブログで発信されている岩本さん。2013年11月23日(土)に開催の「dot-Ai Vol.2」や、2013年12月9日まで開催の「あなたが思う『最高のクリエイティブ』を投稿して商品が当たる」大塚商会の「みてコレ!」を紹介されました。
また、当勉強会にもご登壇されたカワココ(川端亜衣)さんのイラストが米国のAdobe Systems社のサイトで国際的に紹介された快挙を報告されました。「英語のページだがファイルがダウンロードできるので、Illustratorだけで描かれた着物の風合いがどう作られているのか見てみるだけでも価値がある。また、印刷会社では印刷のテストに利用できる」と記事の利用方法を紹介されました。
Adobe CCのお得な購入方法として、DTPユーザーにはグループ版がおすすめと紹介されました。さらに、お得なキャンペーンの第2弾を紹介されました。加えて、過去バージョンの正規の導入方法を紹介されました。
⇒いわもとブログ
⇒dot-Ai Vol.2
⇒「みてコレ!」大塚商会
⇒Adobe Illustrator blog/川端亜衣による「緋牡丹と花魁」 (英語)
Session 2:ブックデザインのプロセス─Adobeアプリケーションを使ったブックデザインの実例紹介
スピーカー:坂野公一氏(welle design株式会社代表、アートディレクター/グラフィックデザイナー)
Session 2では、横浜でデザイン事務所welle designを経営される坂野公一さんから、「ブックデザインのプロセス─Adobeアプリケーションを使ったブックデザインの実例紹介」として、書籍のデザインのお仕事の舞台裏をお話しいただきました。
ソニーを経て、タイポグラフィで日本を代表する巨匠杉浦康平さんの下でデザインを学ばれた坂野さん。2003年に独立され、文芸系・ミステリーを中心に、年間200冊もの書物のデザインを手掛けるトップデザイナーの一人。
「ブックデザインは、どうやってできているのかな? 私もこうやって作っている! そんな風に聞いてもらえると嬉しい」として、一田和樹、大沼紀子、京極夏彦、高田崇史、西尾維新、水木しげる、皆川博子、森博嗣(50音順、敬称略)といった錚々たる人気作家と作り上げた作品を実例にしつつも、オープンな雰囲気でお話くださいました。
考え方の整理としてデザインの領域を、グラフィックデザイン、ブックデザイン(装幀含む)、エディトリアルデザイン(雑誌など)と分類。仕事の依頼のレベルは、装幀のみ(カバーデザイン)、本文のみ(フォーマットのみ、全ページアップ)、装幀と本文全て、その他(帯のみ等)と多様なパターンがあると述べられました。
文芸の仕事は自由なようで制約が多い、合成フォントは現場の負担を考えて複雑にしていない、岡澤慶秀さんに游築初号ゴシックのW1を特別に作っていただいた、欧文はウエイトが揃っているDINをよく使う、できるだけAdobe InDesignの機能だけで作業できるようにしている、デザイン案の検討にアンケートサービスを使うこともある……等々、書物を彩るデザインの裏話を多数お話くださいました。
最後にライフワークとして現在取り組まれている、京極夏彦さん監修の『水木しげる漫画大全集』を紹介されました。デジタルリマスターとして新たに着色や文字の打ち直しをしており、作業効率からInDesignにアドオンできるルビソフトへの関心を話されました。「100巻、6年くらいはかかる見当で随時刊行されるので、書店で見かけた際にはぜひ手に取って」とアピールされました。
レポート:加納佑輔、的場仁利