今回のDTPの勉強部屋は、電子書籍とPhotoshopの2つのテーマで開催しました。
Session 1ではSF小説『Gene Mapper(ジーン・マッパー)』の執筆、編集、電子書籍による直販・自費出版を個人で行い、さらに2013年4月に早川書房からいわゆる紙の本・商業出版でデビューを果たした、作家、デザイナー、DTPエンジニアの藤井太洋さんから、「Gene Mapperの現場から」と題してプロジェクトの全体像をお話いただきました。
Session 2では今回で4回目の登壇となる、インターネットを利用した写真撮影スタジオ「撮影ドットネット」のプロデューサー渡邊和仁さんから、Photoshopの操作の基礎である「基本ツール」「選択範囲」「レイヤー」「ショートカット」に焦点を当てた講義をいただきました。
また、プチセッション拡大版として、アドビシステムズから名久井舞子さんにお越しいただき、「Creative Cloudのご紹介」として、先のAdobe MAX 2013での発表で話題となっている、同社のクリエーティブツールのCreative Cloudへの一本化についてお話いただきました。
Session 1:Gene Mapperの現場から
スピーカー:藤井太洋氏(Gene Mapper)
Session 1では、アマゾンの2012年「Best of Kindle本」文芸・小説部門において商業出版物を押さえて1位を獲得、さらに2013年4月にはSFやミステリーで有名な出版社・早川書房からいわゆる紙の本・商業出版としても刊行されたことで注目を集めるSF小説『Gene Mapper(ジーン・マッパー)』の著者で、作家、デザイナー、DTPエンジニアの藤井太洋さんをお招きし、執筆、編集、各種フォーマットでの電子書籍制作、販売、PRをお一人でどのように行ってこられたかをお話いただきました。
まず、SF小説『Gene Mapper』プロジェクト全体の紹介から入られ、執筆に使われたソフトウェア等を紹介。主にiPhoneとiPadで読まれることを想定しフォーマットはEPUBベースに設定。執筆のスタイルとしては、電車での移動時間中にiPhoneで書かれ、Dropboxに同期できるNotebox、Simple Note、MacではScrivenerを使い執筆されたと述べられました。
執筆にInDesignを使わなった理由として、電子書籍は読者の環境により行長が変わるためレイアウトを細かく操る必要がなかったことと、IVS定義の文字が画像になる場合があり自分でやることにしたと解説されました。また、そうしたことによって手作業での修正をすることがなくなり、版の履歴管理や安定を図ることができ、バリエーションが増えてしまうリスクを減らすことができたと付け加えられました。
デモでは、長文になるファイルを適切に分割することを薦められ、ブラウザ表示解像度の違いに応じたルビサイズのノウハウや、意外と語られることが少ない電子書籍での校正についてのコツも披露されました。
公式サイト「Gene Mapper - Official Web Site」を設け、リリースノート、ブログ、試し読みを掲載し、あらゆるマーケティングの中心に据えていると述べられました。具体的なマーケティング施策として、2012年7月24日の電子書籍による『Gene Mapper』の自費出版開始から、BOOK asahi.comのパブリシティーでの紹介やネット上のオピニオンリーダーに注目されたこと、2012年11月15日の繁体中国語版発売、2013年4月24日の早川書房『Gene Mapper −full build−』刊行までのデジタルボーンから商業出版へのサクセスストーリーの中に、決済方法・デリバリー・販売先・プロモーション……等々の話題を織り込み、日付を追って詳細に紹介されました。
最後に、講演当日の2013年5月18日の日本経済新聞でご自身が紹介されていることに触れられ、「個人出版から紙での出版デビューを果たせたのは、読者と、さまざまなプロフェッショナルが積み重ねた知識のおかげ」と結ばれ、喝采の中セッションを閉じられました。
プチセッション:
今回は2名の方と、拡大版としてアドビシステムズ様からAdobe Creative Cloudのバージョンアップと製品ラインナップの大きな変更に関するご発表をいただきました。
スピーカー:牧野佐智子氏(WASパソコンマルチメディアスクール)
「デザイナーの卵たちの受け入れ.インターンシップ制度のすすめ.」として、求職者向けの職業訓練と、インターンシップ制度の紹介をされました。DTPやWebのデザインや技術にとどまらず、マナー、コミュニケーションも含んだ広い人材育成をしているとのこと。同スクールの訓練生をインターンとして受け入れた場合、採用コストを下げられるという企業へのメリットを述べられ、インターンシップ制度の活用を案内されました。またアベノミクス助成金を利用した、会社勤めの方に向けた研修プログラムも紹介されました。
スピーカー:西村新氏(株式会社こいけやクリエイト)
「自社媒体を発行して8カ月」として、経営される豊田市密着型のデザイン事務所が新たに刊行した媒体とその展開を紹介されました。人生を耕すためのライフスタイルマガジン「耕Life(こうらいふ)」誌。フリーペーパーとして刊行して間もない同誌が、「豊田のローカル色」を前面に出すことで市役所に設置されるようになったことや、「耕」というキーワードによって「日本農業新聞」やFM Tokyo・JFN系「アグリズム」にパブリシティで取り上げられた実績、紙面のデザインテイストを気に入った方からの新規受注ついて触れられ、情報発信の有用性を述べられました。
スピーカー:名久井舞子氏(アドビシステムズ株式会社)
アドビシステムズの名久井舞子さんから「Creative Cloudのご紹介」として、2013年5月6日に発表されたAdobe Creative Cloudのバージョンアップについてご発表いただきました。
まず、先日米国カリフォルニア州ロサンゼルス市で開催されたAdobe MAX 2013の基調講演で発表され話題となっている、「Creative SuiteシリーズはCS6を最後にアップデートを終了する」「Creative Cloudが6月18日に最新版にアップグレードされるとともに、アドビ製品はCreative Cloudに一本化される」等々の大きな変更点を改めて発表されました。
次に、「そもそもCCとはなに?」として、Creative Cloudの製品・サービス概要を紹介されました。デスクトップツールが全て使えることに加え、コミュニティや作品を発表するスペースがあること。料金体系は月単位・年単位の契約になり、従来一つのIDに対して2台までインストール可能であったものが、CCでは同時起動も可能になる。サポート体制として、新しいソフトを習得するための教育ビデオを見られたり、電話での問い合わせを何度でも受け付けるといったことを述べられました。
続いて、次回のアップデートによる新機能の紹介をされました。ストレージ領域でのデータの受け渡しがフォルダ単位で可能になることや、作業の履歴が10日間の残りその間いつでも戻れること、ソフト間で環境設定の同期ができることを説明されました。
最後に、新機能のデモとして、Illustratorで文字のアウトライン化をせずに組み文字を作ることができる「文字タッチツール」と、Photoshopで手ブレ写真を大幅に改善できる「ぶれの軽減」を紹介され、Creative Cloudの魅力を短い時間に凝縮して伝えられました。
Session 2:Photoshopを「速く」「巧く」「効率良く」使いこなす
〜新機能ではなく基本を強化し、応用力をつけるレッスン
スピーカー:渡邊和仁氏(株式会社オーエスティー/撮影ドットネット)
Session 2では、フォトレタッチャーとして、Photoshop黎明期からデジタルフォトレタッチを行なっている渡邊和仁さんに、現場に即したフォトレタッチのテクニックを解説していただきました。最初にPhotoshopの歴史を各バージョン毎の追加機能や、デジタルフォト技術の歴史、そこにどのように渡邊さんが関わってきたかを簡単に説明されました。
簡単な前置きが終わった所で、いよいよレタッチテクニックの説明へ。「新機能の紹介はほとんどしない」「地味なテクニックなので面白みはないです」と前置きされつつも、最前線の現場でたたき上げた本物のテクニックと軽快なトークで、会場は非常に盛り上がりました。
先に基本的な前提として、おすすめの作業環境を解説。Photoshopは、同じツールやフィルタでも、バージョンアップによって、性能が洗練されているのでなるべく最新のバージョンを使用することをお勧めするとのことでした。その後具体的な事例として、まずは商品写真を「より良く見せる」ためのレタッチテクニックを各機能のデモンストレーションを交えてお話していただきました。解説していただいた機能は、シャープネス、レイヤーマスクの使用法、合成した写真のなじませ方などです。レタッチ作業で重要なことは「オリジナル画像に手を付けない」「ツールやフィルタ機能を使用する順番に気をつける」とのことでした。
次に、人物写真を例に、「美しいモデルをより美しく見せる」ためのレタッチ方法を解説。顔の各パーツの形状補正や、質感の向上のための意外なテクニックなど、一つ一つはほんの少しのレタッチ作業なのですが、最後にレタッチ前とレタッチ後の写真の比較がモニターに表示されると、意外なまでの大きな変化に、会場がどよめき沸きました。
レポート:加納佑輔、的場仁利