今回のDTPの勉強部屋は、2010年5月28日に発売されたばかりのAdobe CS5について、新機能の紹介を中心に行いました。前半をYUJI氏(InDesignの勉強部屋)、後半を岩本氏(アドビシステムズ)が担当し、Design Premiumに含まれる製品群における新機能および変更点の説明を軸に講義が進行しました。折しもAdobeをはじめとする複数の企業が全国でCS5関連のセミナーを数多く開催する中、講師も参加者も肩の力を抜いた和やかな勉強会となりました。また、今回初めての試みであったセミナー後の「交流会」は、Macお宝鑑定団のDANBO会長の乾杯のあいさつで始まりました。懇親会に参加されたことのない方も多く、今回のテーマであったCS5の話題をはじめ、DTPに関する様々な話題で盛り上がりました。



Session:使ってみようCS5!


岩本崇氏(アドビシステムズ)、YUJI氏(InDesignの勉強部屋

●CS Live
CS5をインストールしていずれかのアプリケーションを立ち上げると、メニューバーの右上に「CS Live」というリンクがあり、Adobeオンラインサービスに移動できます。これらは1年間無償で利用できます。それぞれの内容については以下のとおりです。

・Adobe BrowserLab
OSおよびブラウザごとの差異を検証・確認できるサービスです。

・CS Revies
IllustratorやInDesignを持っていないクライアントに、ネット上で見てもらえるレビューを作成します。

・Site Catalyst
最適なデザインやコンテンツを作成するため、Webを解析し、閲覧状況や傾向を知ることができます。

・Adobe Story
映像制作における台本の作成を共同作業で行うものです。残念ながら日本語環境では動きません。

・Acrobat.com
文書を保存して複数のユーザーと共有することができます。現在のところ、期間の制限なく無償で利用できます。

●Photoshop
従来の32ビットのマシンには認識できるメモリの上限がありましたが、64ビットのマシンには上限がありません。CS4でのWindowsマシンへの64ビット対応に続き、今回Macintoshマシンも64ビット対応となりました。設定を変更することにより、32ビットモードで利用することも可能です。
Bridge経由での作業が便利と思われる新機能のひとつとして、「HDR Pro」のデモが披露されました。これは露光の違う複数の画像を元に最適な画像を作る機能です。処理内容はプリセットに登録でき、反復作業や自動処理に利用できます。手動による調整方法も用意されています。
レタッチ作業を強力にサポートする新機能として、髪の毛などの選択範囲をより高精度に調整する「スマート半径」や、スポット修復ブラシ・塗りつぶしコマンド使用時の新しいオプション「コンテンツに応じる」による高精度な不要画像要素除去のデモが行われました。
その他、「絵筆ブラシ」及び「混合ブラシツール」、「パペットワープ」などの機能が紹介されました。

●InDesign
・ファイル関連
ひとつのドキュメント内に異なるページサイズを混在させられるようになりました。しかし、不用意に複数ページサイズを混在させると印刷事故につながる可能性もあります。その予防策として、CS4から搭載されているプリフライト機能の利用が提案されました。プロファイルの新規項目として追加された「すべてのページのサイズと向きを同じにする必要があります」にチェックを入れておけば複数のページサイズが混在するドキュメントをチェックすることができます。
パッケージを行う際、Adobeフォントであれば2バイトフォントも収集するようになりました。その際、パッケージを行ったフォルダの中に「Document fonts」フォルダが作成され、パッケージ済みドキュメントを編集する際には「Document fonts」フォルダ内のフォントが優先的に認識される仕様となりました。これにより小塚フォントのバージョン違いによる印刷トラブルを回避する効果が期待できます。

・画像関連
CS5から、配置した画像の上にマウスを重ねるとドーナツ型のアイコンが表示される「コンテンツインジケータ」が追加されました。画像の内容を編集する際、これまでのようにダイレクト選択ツールに持ち替えることなく、ドーナツアイコンをクリックするだけで内容を編集できるようになりました。他に、複数画像配置(及び複製)機能の強化や「ライブキャプション」などが紹介されました。

・インタラクティブ関連
InDesign上でリッチコンテンツを制作するためのワークスペース「インタラクティブ」が追加されました。複雑なコーディング作業をすることなく、動きのあるWebページを作るためのメニューが追加され、作成したコンテンツをSWF書き出しできます。従来のSWF書き出しにおいてはページをめくることができる程度でしたが、サウンドや動画の配置、オブジェクトにアニメーション効果を不えるなど、InDesignだけで実現可能な処理が飛躍的に増えました。

・組版関連
段抜き・段分割がデモと共に紹介されました。

・その他
SINGグリフレットマネージャがCS5には搭載されなくなりました。従来のSING外字を表示・印刷するエンジンは引き続き搭載しています。
他にはレイヤーパネルの機能強化やオブジェクトロックの仕様変更などが紹介されました。

●Illustrator
・遠近グリッドツール
Illustrator上で消失点を1点から3点まで選んで描画することが可能になりました。従来の立体表現よりも正確に描画することが可能となりました。

・線幅ツール
描画した線の任意の部分について太さを変更することが可能となりました。なお、線の両端に発生させる矢印の大きさ及び発生位置も変更可能となりました。

・ピクセルグリッドに整合
きちんと設定せずに作業した場合Web用に書き出すとズレやすかったという問題がありましたが、ユーザーが意識することなくWeb上でもきれいなエッジを表現できるようになりました。

・その他
マルチアートボードは決して複数ページではない点を強調し、ページ物作成用としてはInDesignを使うことを強く推奨されました。
他にはペースト機能の強化、背面描画・内側描画などの機能を紹介しました。

●Flash Catalyst
CS5から新たに追加されたアプリケーションです。初心者がFlashを使う際の最初の壁となっていたコーディング作業を排し、メニュー操作で希望の表現するものです。PhotoshopやIllustratorで作成したパーツを読み込むことができ、インタラクティブなコンテンツを制作することができます。より複雑に作り込みたい場合はFlash CS5にファイルを渡すことも可能です。

最後に、Adobeのサイトでは『Adobe Design Magazine』というページでCS5の最新情報を発信しているという紹介もありました。

プチセッション:

・InDesignのアンカー付きオブジェクト
スピーカー:西村留美氏What's in DTP
InDesignのアンカー付きオブジェクトを活用すると便利だが、FrameMakerと比べると不便な点があることを、画面上でレイアウトの一例を示して説明しました。横組で、左側にタイトル・右側に本文というレイアウトにおいて左側のタイトルをアンカー付きオブジェクトに設定した場合、修正時に右側の本文が減ることで次段落とのアキが狭まってしまうと、左側のタイトルが次段落のタイトルと重なる危険がある点を指摘しました。いくつかの解決策を示しましたが、いずれもすっきりとした解決策とは言い難く、良いアイディアを探しているとのことでした。

・InDesignの自動組版ソフトMetaWorksと自動組版を用いたビジネス活用事例
スピーカー:正保亮氏株式会社ロココ
(株)ロココのInDesign用自動組版プラグイン「MetaWorks」のデモを行い、実際に作業を行いつつ活用事例を紹介しました。MetaWorksはテキストと部品を繋ぐものであり、自動化による時間短縮とヒューマンエラーの低減を図ることができるという優位性を説明しました。また、MetaWorksを利用した新しいビジネスの方向性として、Web上で入力して印刷物を作るといった具体的な提案も行いました。

・たのしいFLASH
スピーカー:松下寛子(hokori)氏ホコホコ
最近のFlashを取り巻く事情に触れた上で、現状におけるHTML5との比較を紹介し、表現力におけるFlashの優位性を説明しました。設計図と部品が大事であるとし、Flashによる作業の楽しさを強調しました。コーディングに抵抗がある向きにはCS5に同梱されているFlash
Catalystという選択肢を示した上で、アニメーションやゲームも制作できることを実際のFlashムービーを示しつつ紹介しました。

・自己紹介
スピーカー:坂井真由美氏(グラフィックデザイナー)
フリーのグラフィックデザイナーですが、Web系のアルバイトもこなしているそうです。HTML関連の新しい技術は英語のサイトの方が情報が早く充実しており、英語を学びたいという希望があるとの事でした。また、デザイナーの友だちが欲しいとアピールされました。

・携帯ルーペ 覗きのすすめ
スピーカー:村上良日氏
印刷物を肉眼で見ただけでは「何かがおかしい」と思っても原因を特定することは難しいため、ルーペで確認することを推奨しつつ、軽妙な語り口で会場の笑いを誘いました。
印刷機のインキの過乳化やローラーセッティング不良による印刷不良、用紙の種類による色再現の違いなどを画面を使って紹介しました。「本で見た物は実際に自分の目で確かめることによって本当の知識になる」と説き、不具合の原因を推測するには知識と経験が不可欠であることを強調しました。

・デジタルチラシの有用性
スピーカー:柴田勉氏株式会社ノア・デジタル
Webチラシの制作事例を紹介しました。テキストを音声合成ソフトで自動音声にして読み上げさせたり、Webへのリンクを埋め込むなどリッチコンテンツとしての充実性を示した上で、制作環境の優位性にも触れました。
ASPを通じて遠隔地のオーサリングソフトを利用することにより全てのWeb上から作業できるため、出先での作業も可能との事でした。今回の紹介事例以外の中にはPDFをSWFでくるんだリッチコンテンツもあり、そちらはテキストなので拡大した際にもきれいな表示に耐えうるとの事でした。



レポート:壱岐孝平