2015年11月21日(土)、DTP勉強部屋「第38回勉強会」が、ウインクあいち小ホールにて開催されました。
Session1ではスクリーン印刷の老舗、大和グランド株式会社の河合省吾さんによる、SAT SYSTEMという、画期的な印刷機の紹介、
Session2では、イラストレーター・DTPオペレータとして活躍しながらも、Illustratorの講習・執筆を数々行っている、五十嵐華子(hamko)さんによるIllustratorの機能の一つである「アピアランス」についてお話していただきました。
ミニセッションでは、石井俊充さんによる「コンテンツ作り」に役立つ自作ツールの紹介、山田学さんによ中部グラフィックコミュニケーション開催のセミナーの案内、YUJIさんによる、Adobe Maxで紹介したInDesignのTips等の披露が行われました。

Session 1:SAT SYSTEMにおけるデザインの可能性
スピーカー:河合 省吾 氏大和グランド株式会社 専務取締役)


世界の印刷技術を見て回り、日本の情報鎖国を危惧して8年かけて新技術の立ち上げに取り組んだ河合さん。セッションは「オフセット印刷とスクリーン印刷の間にある壁に穴を開けちゃいました」という言葉から始まりました。
SAT SYSTEMはスクリーン印刷の耐久性を保持したまま、オフセット印刷の基本形式で高速かつ高精細(200線)に刷る事ができる新しい印刷技術。
水無しオフセット印刷機で成形用フィルム印刷を実現。JIS規格よりも厳しい83℃400時間の紫外線でも色があせにくい。時速は500〜8000枚で、少量でのテストも可能となりヤレがほとんど出ないなどの特徴を説明されました。
この技術に対して、印刷業界からは拒否反応もあったそうです。しかし、それは自分たちの立ち位置から、従来のオフセットやスクリーンの延長線上の捉え方をするから出てくる意見であり、SAT SYSTEMはこれまでの印刷とは違う全く新しい視点で見ることが大切だということでした。それは一般印刷のDTPやWEBに携わっている勉強会の参加者にも言えることで、一見自分とは関係ないことのように感じるかもしれない。それでも、低迷する印刷業界の中にして、生まれたばかりの技術を知ることができたこと、その情報提供をしてくれる人間が目の前にいるということは、それ以外の人よりも先に動き始めることができるということ。自分の普段の仕事の立ち位置から見るのではなく、全く新しい視点から考えてみませんか、と呼びかけました。
さらに、全く新しいアイデアを出すためのヒントとして、河合さん自身がオフセット印刷でスクリーン印刷並みの耐久力を目指し、SATにたどり着くまでの「現在の位置と目標」をOmniGraffleを用いて管理していたことをあげられました。目標に対して進めるごとに旗を立て、無理そうならひとつ前の旗に戻る。無理には進まず、進む事を忘れない事が大切だということを説明されました。
また、会場にはSAT SYSTEMで印刷した自動車の内装用に成形されたフィルムや、絵画をスキャンし細かな色表現も6色だけでかなり高精細にプリントされたサンプルも展示されており、実際に手にしながら説明を聞く事で、よりリアルに付加価値を感じることができました。

ミニセッション:

スピーカー:石井 悦志 氏(グリンスタイル株式会社
石井さんが主宰する、コンテンツ創出のお手伝いEN JOYプロジェクトと、自身が作成した、コンテンツ作成ツール「EN Joy Maker」の紹介。

スピーカー:山田 学 氏(大寶製版株式会社
中部グラフィックコミュニケーションズ工業組合が開催する「クロスメディアカンファレンス」の案内。
自社のオンデマンドサービス「デジタルものづくり工房」の紹介。

スピーカー:YUJI 氏(InDesignの勉強部屋
先日開催された「Adobe Live 2015 – Best of MAX」で紹介したInDesignのTips紹介。
他には、先日モリサワやタイプバンクのフォント追加が話題になった、TypekitやAdobe Stockの紹介など。

Session 2:脱・初心者!Illustratorのアピアランスを使いこなそう
スピーカー:五十嵐 華子/hamko 氏ham factory


イラストレーター・DTPオペレータとしてだけではなく、Illustratorに関する講習でも各地で活躍され、なかでも以前発表された「アピアランス機能だけで制作した洋食シリーズ」で、「ここまでやるか」とDTP従事者を震撼させた五十嵐華子(以下hamko)さん。今回は、初心者に敬遠されがちだったIllustratorのアピアランス機能の、後で編集しやすいデータ制作方法にフォーカスしたお話をしていただきました。
簡単な自己紹介の後、まず「アピアランス」とは何かという、簡単な説明がありました。ここから「こんなデータは嫌だ」として「角丸が角丸長方形ツールで作られたもの」「フチ文字が昔ながらの方法で作成されたもの」「線を重ねて作られた、線路オブジェクト」など、DTP従事者なら一度はお目にかかる「修正するのが面倒な、迷惑な〈あるある〉データ」を紹介し、開場からの大きな共感を得ました。
これらのデータはアピアランス機能のごく初歩的な使い方で「後編集に強いデータになる」ということで、デモを交えて簡単な紹介。
アピアランス機能を使いこなす上で重要になるのは、[アピアランス]パネルであり、パネル内で「何が起きているのか」を理解することが重要であるといいます。[アピアランス]パネル内の要素は、適用される順番によって結果が変わり、それは料理で言うと「下ごしらえ」「調理」「仕上げ」にあたるものである、と考えると分わかりやすいとのことです。
ここからは、用途別のアピアランス機能の便利な使い方をデモを交えながら紹介していただきました。まずは「DTP編」として、「ゴシック体などの角を丸くする方法」や「内側角丸フレーム」と題した飾り枠の制作方法を披露し、その後は「イラスト編」に移り、+Designing vol.40に掲載された記事「カレイドラボ」に提供したイラストで、アピアランス機能を使って制作したパーツ類の制作方法を紹介。「和風の雲のつくりかた」「四角形の紙吹雪のつくりかた」を披露していただきました。
今回紹介されたテクニックは、Illustratorの基本操作を理解していれば誰でもすぐにできるため、役に立った人が多かったと思われます。これらの他にも、hamkoさんの個人サイト「ham factory」でTips紹介や一部データがダウンロードできるので、興味のある方はそちらも参考にしてみるとよいとのことでした。hamikoさんのSessionは、ツールとしてのIllustratorの楽しさがよく伝わってきて、帰宅したらすぐにIllustratorを立ち上げたくなった人も多かったのではないでしょうか。

レポート:加納 佑輔・吉岡 典彦