2015年5月16日(土)、DTPの勉強部屋「第36回勉強会」が、ウインクあいち小ホールにて開催されました。
Session1は、組版オペレーターの傍ら、自作のInDesignやIllustratorのスクリプト公開や、DTPに関する雑誌記事の執筆もされている、丸山邦朋(ものかの)さんが登壇。日本語組版に関する深いお話をしていただきました。
プチセッションでは、島崎肇則さんによる配色の基礎知識と、樋口泰行さん、hamkoさんに、先日好評だった24時間Illustrator「愛(Ai)はクリエイティブを救う」で行ったデモンストレーションの再現をしていただきました。
Session2は、名古屋を中心に、クリエイティブディレクターとしてブランディング事業で数々の実績と、多くの受賞歴をもつ矢野まさつぐさんに、クライアントに満足してもらうためにご自身が実行していることを中心にお話ししていただきました。

Session 1:文字組版をもうちょっと考える
スピーカー:丸山 邦朋 氏ものかの


Session 1は、書籍組版のプロで、組版に詳しいだけでなく、InDesignのプラグインやIllustratorのスクリプトなどを公開している丸山邦朋(通称:ものかの)さんによる、組版に関する哲学的とも言えるお話でした。
まず、何らかの形で日本語組版に関わりがあるほとんどの来場者に向けて「日本語組版を行っていて、ある種の「もやもやした気持ち」を感じていないだろうか」という疑問を投げかけます。それは具体的には「欧文組版と違った、居心地の悪さ」「触れてはいけない空気」といったものだといいます。
なぜ、日本語組版にはある種の居心地の悪さがあるのか。それを探るために、丸山さんは今日のデジタルフォント以前の日本語表現に遡ります。活版ができるまえの、江戸の木版(版本)や仮名ができた平安時代の書、さらには仮名ができる以前の空海の書や中国の書まで遡り、本来漢字の文字組みは、1文字1文字を均等に並べる「ならべ書き」であり、ここに連綿が前提の仮名が交じることで、日本語組版は複雑化せざるを得なかったことを解説します。
丸山さんは、活字による文字組みとは「言葉」と「工業生産」の2つの要素から成り立っていると述べ、工業生産品として品質を安定させるために、日本語組版は「木版」から1文字1文字が独立した「活版」へ移行していったと説明します。その後、文字組みは今日のデジタルフォントと組版ソフトによる、データ作成に移行しますが、「言葉」と「工業生産」の2つを高い次元で両立させるために大切なことは、「読んだ人が、適切に〈意味〉を生み出せるようにすること」と言います。人は文字を組んだときに「意味」がすでにそこにあるように錯覚してしまうが、本来はそうではなく「読んだ人がその瞬間に〈意味〉を頭の中で生み出す」のである。そのために組版に従事する人間は「読みやすさ」を求めがちだが、それは工業製品として当たり前のことで、「言葉」の領域としての「意味」を、読んだ人が生み出せるようにすることが、必要なのだと力強く解説しました。
丸山さんのお話は、終始熱気につつまれており、聴衆者はどんどんと引き込まれていく、独特の空間となりました。日本語組版に従事する人必見の内容といえ、感銘を受けた方も少なくなかったようです。
その後、時間が少し残ったため、IllustratorとInDesignのデモンストレーションで、「ソフトウェアがどのようにして縦組みを行っているか」という解説を、和やかな雰囲気のなか行いました。

プチセッション:

スピーカー:島崎 肇則 氏
配色いろはの「い」。配色の基本的な考え方を解説。

スピーカー:樋口 泰行 氏
24時間Illustrator「愛(Ai)はクリエイティブを救う」Ai-1グランプリで実演されたデモから、
様々なハートの作り方を紹介。

スピーカー:hamko 氏(ham factory
24時間Illustrator「愛(Ai)はクリエイティブを救う」Ai-1グランプリで実演されたデモから、
星座表の作り方を例に、アピアランスやスクリプトを交えて効率よく作成する方法を紹介。

Session 2:クライアントから本当のニーズを引き出す4つの質問と、サービスとホスピタリティーの違いについて。
スピーカー:矢野 まさつぐ 氏株式会社レンズアソシエイツ 代表取締役/クリエイティブディレクター)


名古屋でアートディレクターをされている矢野さんのセッションは、クライアントとの関係性や、一緒になって良い物を作っていくということを考えさせられるお話でした。
矢野さんはまず、デザイン業が役所等で「サービス業」にカテゴライズされていることへの違和感と、自分たちの仕事は「ホスピタリティ業」であるという考えを示し、サービスとホスピタリティはどう違うのかを説明されました。
サービスは提供する側が効率性を求めて何をするのかを決めるもので、例としてメニューと対価が明確なコンビニやファーストフードのチェーン店などをあげられました。
ホスピタリティは受け手が何をして欲しいかを汲み取って、おもてなし・喜びを与えるものであり、利害関係のない家族間のやりとりや、常連の集まる個人の居酒屋などがそれに当てはまるとのこと。デザイン業も、クライアントによって答えが違うオートクチュールな業種であることから、ホスピタリティという表現がしっくり来ることがよく分かりました。
そして、話はヒアリングのテクニックへ。矢野さんはグラフィックデザイナーからディレクター職へ移ったことにより、一日のうち人と話している時間が多くなったそうです。そこで編み出したテクニック「クリエイティブブリーフ」を紹介していただきました。これは4つの質問+αで構成された1枚のシートで、決まった順番で質問していくことでクライアントのニーズを導き出せるというものでした。
その4つの質問は、まず「1.現在の立ち位置」(クライアントが周りにどう思われているか。その理由はなぜか)、次に「2.あるべき立ち位置」(目標ゴール・ターゲットにどう思ってもらい、どう行動してもらうか。核となる欲求は何か)、そして「3.モノの相」(商品・サービスのポイント。他社との違いは?商品単体だけでなく会社の文化から見えることもある)、最後に「4.ヒトの相」(お客様・ターゲット。性別や年齢で限定されない、共通の「ライフスタイル」や「気持ち」を持った人たちのこと)。これらの質問を、順番にいろんな聞き方で深堀りをして、クライアント自身も気づいていなかった、数字やマーケティングでは見えてこない信条や本当の気持ちを引き出すこと。ここまでくると、クライアントとの距離も縮まり、デザイン案をいくつも出さなくても、これだけ理解してくれた人が良いと言うものなら、自分も良いと思うものだろうと認識してもらいやすくなるのだそうです。
さらにここで打合せの核となる「5.出会いの相」を示されました。「3.モノ」と「4.ヒト」がどういう出会いをすれば「1.現状」から「2.目標」へ到達できるのか、その為に何をすればいいのかを一緒に考え、短期的な目標や、長期的な目標を整理する段階。当初は1枚のチラシだけを予定していた案件が、大きなお仕事へ発展することもあるということでした。そこに「6.業界の環境・経済状況」「7.具体的な提出物(&スケジュール)」も記入した「クリエイティブブリーフ」が1枚あれば、打合せに参加していないスタッフとも重要な情報を共有できると述べられました。
その後の質疑応答でも「クライアント側の人間として動く」「そのために余計なおせっかいを沢山する」などの回答が出て、ホスピタリティの意識が溢れたセッションでした。

レポート:加納 佑輔・吉岡 典彦