2015年2月21日(土)、DTPの勉強部屋「第35回勉強会」が、ウインクあいち小ホールにて開催されました。
Session 1は、本勉強会「DTPの勉強部屋」の主催者で、ウェブサイト「InDesignの勉強部屋」を運営されているYUJIさんが登壇。「Creative Cloudで大きく変わるワークフロー」として、作業をより便利するサービスやアプリの紹介と、Creative Cloud以降に追加された新機能をご紹介いただきました。
ショートセッションは、「page2015」のクリエイティブゾーンセミナーで好評だったInDesignの自動化についてのセッションを、川原 正隆さんよりお話いただきました。
Session 2は、ブックデザイナーの鈴木 一誌さんにご登壇いただき、「フォーマットをつくる」と題して、杉浦康平氏のアシスタント時代の事も交えつつ、「粗い目盛り」を用いることで引き出される本文設計についてお話いただきました。

Session 1:Creative Cloudで大きく変わるワークフロー
スピーカー:YUJI 氏InDesignの勉強部屋


Session 1は、本勉強会「DTPの勉強部屋」の主催者のYUJIさんより、Creative Cloudを導入することで得られるメリットと新機能をデモを交えて紹介していただきました。
まずCreative Cloudを用いるメリットとして、Adobeが展開している様々なサービスやモバイルアプリが利用できることを上げられました。
フォルダやファイルをグループで共有することが可能なクラウドストレージ。これはファイルの作業履歴から過去状態に戻すこともできるということでした。他にも、フォントを利用できるTypekit、様々な素材がDLできるCreative Cloud Market、各アプリケーションの機能追加プラグインがDLできるAdd-ons、自分の制作したデータをアップし世界中のクリエイターと交流できるサービスBehanceなど、クラウドを活かしたサービスを紹介いただきました。また、昨年11月にリリースされた多くのiPhoneやiPad向けモバイルアプリは、Creative Cloud上でデータが連動され、モバイルアプリで作った作品をデスクトップ上でも編集ができるということを説明されました。
次に紹介されたのが自分が使うカラーテーマやテキストスタイル、ブラシ、グラフィックなどの素材を管理できるCreative Cloudライブラリ。これはIllustrator、Photoshop、InDesignのそれぞれのライブラリパネルから(InDesign[CCライブラリ]パネル)共通の素材を登録・使用ができ、アプリ間同士でシームレスに連携させながら作業できる機能でした。
モバイルアプリもiPhoneの画面をスクリーンに映してデモが行われました。Adobe Shape CCはiPhoneなどで撮影した画像をパス化することができるアプリで、保存すると自動的にCreative Cloudライブラリに登録され、即座にIllustrator等で編集できるようになっていました。また、撮影した写真をIllustratorやPhotoshopのブラシとして使えるAdobe Brush CC、カメラに映るものから5色を選びカラーテーマとして登録できるAdobe Color CCも紹介されました。
そして話はCreative Cloudのデスクトップツールの新機能へ。全体の機能として、同じAdobe IDの2台のマシン間で環境を揃えられる[設定の同期]と、Illustrator、Photoshop、InDesignのドキュメント上でフォントのプレビューが可能になったことを紹介されました。
次に、Illustrator CC以降の新機能。コーナーウィジェットを使って作れる新しい角丸、ペンツールのラバーバンドや、曲線ツール、パス連結ツールなどの強化されたパス関連機能、ポイント文字とエリア内文字の切替えや自動サイズ調整が効くようになった文字オブジェクトがデモされました。
Photoshop CC以降の新機能としては、ピントの合っているところだけを切り抜く「焦点領域」、解像度の低い画像のアップサンプリングが[ディテールを保持(拡大)]を選ぶことで、より高品質にできるようになったこと、強化されたガイド機能、スマートオブジェクトのリンク配置とパッケージが紹介されました。
そして最後のInDesign CC、先日のアップデータで機能が向上した表機能から紹介。テキストフレーム内にカーソルがなくても[表を作成[コマンドからダイレクトに表が作れるようになったこと、選択した行や列をopitionキーを押しながらドラッグで移動できるようになったことが説明されました。また、カラーテーマツール、固定EPUの書き出しについても解説されました。

ショートセッション:まとめて解る!InDesign自動化の全て・改
スピーカー:川原 正隆 氏株式会社ニューキャスト
いつものプチセッションに変わり、今回は30分のショートセッションが行われました。
ニューキャストの川原 正隆さんは、「page2015」のクリエイティブゾーンセミナーでお話された「まとめて解る!I nDesign自動化の全て」のスライドを倍の量にして登壇されました。
まず「InDesignの機能を活かすには、DTPオペレーター以外の人にも知ってもらうことが大切」という言葉からはじまり、使用者だけではなくそこに関わる人たち(営業・校正者)が機能を知って、効率的な作業をイメージし、時間を手に入れよう!というお話でした。
InDesignの自動化機能として「段落・文字スタイル」「ワード取り込み」「タグ付きデータの取り込み」「データ結合」「XML取り込み」「検索置換」「スクリプト」のデモをしながら、事前に仕様をしっかり吸い上げること、不安のある機能はその他のツールで検証してみること、100%自動化できなくてもいいから機能の使いどころを見極めること、手作業より機械に任せた方が安全だということを伝えていただきました。InDesignが入っていないマシンでの分業方法や、クライアント側で加筆修正できる使い方など、機能をシンプルに上手く使った方法も紹介されました。
さらにその先のお話として、IDMLを使ったライトなWEB自動組版「IDML Binder」を紹介されました。これは、InDesignでタグを入れたテンプレートをアップすると、そのタグがWEB上のフォームになり、そこへエクセルデータをアップすることで各項目が紐づくという、自動化への新しい提案でした。

Session 2:フォーマットをつくる
スピーカー:鈴木 一誌 氏


ブックデザイナーである鈴木 一誌さんによるセッションは、紙やWEBのデザインの核心としてフォーマットの重要さが深く伝わってくるお話でした。
鈴木さんは、雜誌や書籍などのデザインにおいて、フォーマットをしっかりと作ることで、複数のデザイナーの作業における変化を受け入れつつ、全体として統一感が生まれるということ、また、フォーマットが予算やスケジュールを立てるためのチームワークのシナリオになるということを述べられました。
まず、自分の中に「粗い目盛り」を持つことを提案。活字、写植の頃の仕組み的な目盛りの不自由さを、あえてDTPの時代に積極的に使えないか。色に関してもカラースターを例に、粗い目盛りで使える色を限定し、違うなと思ったところは自分のセンスで、徐々に目盛りを細かくしていくデザインのアプローチを説明されました。
そして、かつての遠近法や、設計図で用いられている、かたちを再現するため正方形のグリッド。これを前提とすることで、設計された物のプロポーションを捉えることができると解説されました。例として身近なもののプロポーションも紹介され、鉛筆が1:22、ポケットティッシュが10:7、新幹線のドアが2:5など、どれも綺麗にプロポーションが整っているものばかりで驚かされました。
このプロポーション=正方形のグリッドを、デザイン紙面上にも「粗い目盛り」として取り入れようということで、例として書籍の表紙をグリッド付きで紹介されました。洗練されたレイアウト上の写真や文字などのオブジェクトが、粗いグリッドに沿ってデザインされているのを見て取ることができました。グリッドが目安となり、その中で違和感をおぼえた部分は正方形の半分、さらに半分…と細かい目盛りへとズラしてアレンジをしていることを解説されました。
さらに「円形計算尺」という計算道具を使って、実際に四六判とA5判のプロポーションの割り出し方も説明いただきました。円形計算尺で四六判の128×188ミリを設定すると、19:28をはじめ3通りのグリッド数が割り出されていました。その上で、InDesignではどのようにフォーマットを作ればいいのかを解説していただき、割り出したグリッド上に、レイアウトグリッド、フレームグリッドという階層の違うグリッドシステムが乗っていることを説明されました。
グリッドシステムの細部には、本文と構造明示子が存在し、それぞれの違いについても詳しく説明いただきました。構造明示子は見出しや韻文などのことで、箱組の本文と違う組版ルール・改行のシステムによって成り立っているということ。構造明示子のデザインの仕方についても、大きさや、微妙なセンターからのズラしによって違ってくることが解説され、それぞれ自然に見えたり見えなかったりする例に、会場からも驚きの声があがっていました。
このような微妙なズレで紙面を自然に見せるためには、担当者(編集・オペレーション・デザイン)のセンスの発動がいるということ。しかし、最初からセンスを100%で作業をするわけにはいかないので、あるところまでは「粗い目盛り」で、ここぞというところで自分のセンスを発動したらいいのではないかと重ねて述べられました。

レポート:吉岡 典彦・美奈子