2014年8月30日(土)、DTPの勉強部屋「第33回勉強会」が、ウインクあいち小ホールにて開催されました。今回は、グラフィックデザインをテーマに開催いたしました。
Session 1では、この地方を「ことばとタイポグラフィ」を通してより良い場所にすべく活動され、『世界一ちいさな日本語書体見本帳―なの帳』で話題の日本語デザイン研究会[中部]の加納佑輔さんと的場仁利さんから「明日からすぐに使える、タイポグラフィ技法」として、グラフィックデザインにおける文字の扱い方に関してお話いただきました。
Session 2では、KIRIN「一番搾り」、SUZUKI「HUSTLER」、特別展「ガウディ×井上雄彦」、パルコ「パルコアラ」、「東京国際映画祭アートディレクション」、キリンビバレッジ「キリンレモン」などのお仕事で有名な、博報堂のアートディレクター小杉幸一さんから、「コミュニケーションを機能させる―擬人化のメソッド―」として、企業や商品に「人格」を与えるアートディレクションについてお話いただきました。

Session 1:明日からすぐに使える、タイポグラフィ技法
スピーカー:加納 佑輔氏日本語デザイン研究会株式会社そうさす
スピーカー:的場 仁利氏日本語デザイン研究会株式会社駒平キウブ商事


最初のセッションでは、前半に加納さんご自身が実践されるタイポグラフィーの技法について、後半は的場さんが合成フォントのすすめについてお話しされました。

まず加納さんが、低予算でも品質を高め、さらに効果の出るデザインをするために有効な手法が「より読ませるタイポグラフィー」だと述べられました。タイポグラフィーを有効に活用するために一番重要なことは、お客様が一番伝えたいことは何か、伝えたいこと(=主役)を基準にデザインをすることだそうです。そして、「自分なりの基準」に従って、内容や紙面構成によって書体選びや文字組を絞り込むことにより、オリジナリティーを出し他のデザイナーとの差別化をはかり、埋もれないデザインに出来るとのことです。
続いて、加納さんなりの書体選びの基準をいくつか紹介されました。書体をオールド系・モダン系に分類し、読ませるために書体が持つ「均質さ」を意識するとのことです。一般的にモダン系の書体は均質的でクール、オールド系は柔らかく、かつ骨格が締まって見え、それぞれの系統についてよく使う書体・組み合わせ方法、読ませる優先順位による使い分けについて、ご自身のデザイン例も交えて紹介されました。大見出しに使う書体には仮名が個性的でひっかかりのあるオールド系を使い注目を集める、漢字と仮名の組み合わせは仮名を少し細い書体にする、毛筆書体は仮名がかっこよくないのでオールド系明朝と合わせてもよい、などとても興味深い内容でした。
「読ませるタイポグラフィー」の実践のために、明日からできる習慣として、普段から書体を調べるくせをつけること、年間ライセンスに限らず自分で書体を買い使い込むことで、その書体の良さや悪さについても、思い入れをもって感じてほしいとおっしゃっていたのが印象的でした。

次に的場さんが、合成フォントのすすめについてお話しされました。日本語は、漢字・仮名・片仮名・英数字・約物・記号と、多くの構成要素から成り、これらすべてにおいてバランスがよく、かっこいいフォント(=素のまま使えそうなフォント)は数少ないとおっしゃいました。そこで、それらの要素を違うフォント同士を組み合わせて使う合成フォントの活用をおすすめされ、バランスの良い、かっこいい合成フォントを作成するための、的場さんなりの基準やチップを紹介されました。例えば、仮名を調整する場合、漢字と比べて小さく細い書体を選ぶとよいとか、英数字を調整する際文字の大きさをMを基準に行うとやりやすい、など、実際に合成フォントを作成する上で役立つ情報を、デモを交えいくつか披露されました。
次に、フォントの弱点を避ければよりよく使えるとして、的場さんが考える「フォントの弱点」を紹介されました。そしてアドビのツールに付属の小塚フォントをベースにしたものや、必要最低限のフォントを購入することで実現できる合成フォントのプランを具体的に紹介されました。時間の都合で紹介できなかった部分について、勉強会後の交流会において大いに皆さんの興味を引いていました。
⇒加納佑輔氏スライドPDFダウンロード
⇒的場仁利氏スライドPDFダウンロード

プチセッション:

今回は3名の方からご発表いただきました。

スピーカー:海野紀彦氏(タイムカプセル株式会社)
GIFUアプリデザインセンター「スマートフォンアプリデザイン講座」第2期の紹介。
http://timecapsuleinc.org/

スピーカー:カワデコウキ氏
お散歩写真のススメ。名古屋を中心に散歩写真を掲載するデジタルブックふぉとぽとの紹介。
http://photo-poto.jimdo.com/

スピーカー:森裕司氏(InDesignの勉強部屋
Adobe Creative Cloudのチップス紹介。Typekitのフォントの活用・IllustratorCC2014のコーナーオブジェクトについて紹介されました。

Session 2:コミュニケーションを機能させる―擬人化のメソッド
スピーカー:小杉幸一氏(アートディレクター/グラフィックデザイナー)


商品・企業・ブランドに人格を与え擬人化することにより、コミュニケーションとしてデザインが機能するメソッドについて、小杉さんが実際にデザインした具体例を紹介しながら解説されました。
商品・企業・ブランド・サービスなどを擬人化して人格を与えることによって、それがターゲットに受け入れられる人格かどうかを考えられます。さらに擬人化することでイメージの共有や説明をスムーズに行うことができ、多くの人が関わるプロジェクトにおいて明確な目標を示すことで、一貫してぶれずにゴールを目指すことができるとのことでした。その上で、アートディレクションとは、イロ・トーン・書体・写真などを駆使し、目的となる確固たる人格を作り上げる仕事だと言われました。人格の幅が広いほうが、選択肢が広がるのではと思われるかもしれませんが、逆にクリアで明快な人格のイメージを徹底的に具体化することで、情報が開けるとのこと。具体例として、「高級感」のある色として自信を持って使える色が「金」と「黒」だとすると、「日本らしい高級感」と具体化することにより、前述の「金」「黒」に加え、日本の伝統色も自信を持って使える色に加わります。「高級なビール」に用いられている色を見ると、「金・黒+日本の伝統色」で構成されている事は大変興味深い事でした。商品・ブランドのイメージを刷新した小杉さんの実績と共に、「以前の人格」を「新しい人格」に変える上で具体的イメージの重要性について語られました。
デザインに悩むのは、イメージが曖昧だからだったのだな、と気付かされたと共に、具体例として紹介された実績の数々に会場の目は釘づけとなっていました。

レポート:市場都萌