今回の『DTPの勉強部屋』は電子書籍をテーマにお送りしました。Session 1では『Timeline thinking』の境祐司さんが電子書籍を取り巻く業界の総論を解説され、複数存在するプラットフォームの特性やワークフローを紹介されました。Session 2では『InDesignの勉強部屋』のYUJIさんから、電子書籍の作成形式として注目されている「EPUB」の実際の作成方法と、10月25日に発表されたばかりのAdobe Digital Publishing Suiteの紹介が行われました。また、好評の「プチセッション」と講演後の「交流会」も行いました。

Session 1:電子書籍フォーマットの「特性」と「表現力」を学ぶ
スピーカー:境祐司氏(Timeline thinking


導入では、書籍の電子化は「書籍=電子書籍」と「まったく新しい本のカタチ」の二系統で進むとされました。さらに、InDesignを使う技能、CSSを使う技能、それぞれの専門性に触れられ、エディトリアルデザイナーとウェブデザイナーが協業し案件によって両者の比重をコントロールし対応することが行われているという電子書籍制作の実情が紹介されました。
本編では電子書籍に関する、プラットフォームの種類、Webとの違い、著作権保護の仕組み、各フォーマットやアプリの特性、ワークフロー、各フォーマットの持つ表現力、フォーマットとプラットフォームの選び方等を総合的に紹介されました。
電子書籍の在り方においても「紙の本を売るため」のものと「電子書籍を売るため」の二つのアプローチがあるとし、従来の出版と電子書籍の両方によって業界を拡大することがよいのではないかという考えが述べられました。最後に「2010年はタブレット元年であった。来る2011年こそ電子書籍元年である」として締めくくられました。

プチセッション:

今回は6組の方から発表がありました。

スピーカー:尾花暁氏あかつき@おばなのDTP稼業録
iWork PagesからのEPUB書き出しについてのデモンストレーションをされました。
スタイル名や画像名に日本語を使ってもそのままEPUBに書き出せるメリットなどが紹介されました。

スピーカー:amipokonkoko_hythokori
一緒にカメラ撮影をする仲間「カメ友」の募集をされました。
参加募集や活動報告は随時twitterで行います。
メンバーをフォローするか、ハッシュタグ「#cametomo」付きのtweetをチェックお願いします。

スピーカー:加納佑輔(グラフィックデザイナー)
フリーグラフィックデザイナーとして活躍中であり、手がけた仕事の事例紹介をされました。

スピーカー:川原正隆氏株式会社ニューキャスト
DTPの現場では、「その時に情報を全員でシェアすることによる即効性が重視されるべき」として、そのためのコミュニケーションツールとしてチャットの導入を提案されました。
また、Wiki書式を中間データとして、IDMLやEPUBに持って行く方法を提案されました。

スピーカー:橋内渚氏株式会社ニューキャスト
ムービーが入れられるiPad用のEPUBでのHTML5の利用を紹介されました。CADから3Dのモデリングを行い、ムービーとして表示する様子を紹介されました。

スピーカー:伊達千代氏(株式会社TART DESIGN OFFICE)
最近デザイン料が作業量込みにされるなどギャラが下がった印象が強いとし、同業者向けて「受注を待つのではなく、デザインをひとつのソリューションとしてクライアントに提案すべきでは」との提案をされました。

Session 2:EPUBを理解し、EPUBの作成方法を知る
スピーカー:YUJI氏(InDesignの勉強部屋


Session 2の前半では、InDesignからのEPUB書き出しを紹介しました。電子書籍には様々なものがありますが、その中でもEPUBはリフロー型フォーマットのひとつであり、今後のデファクトスタンダードとなることが予想されます。縦書き表示やルビなど、日本語表示のための機能に課題がありますが、次の仕様であるEPUB 3.0では、それらを追加したフォーマットとなる見通しです。
InDesignから直接EPUB形式に書き出せますが、さまざまな制限があります。現状、EPUBに書き出すためにはあらかじめInDesign側で手を加える必要があり、さらに書き出したEPUBを編集する必要があります。実際にInDesignから書き出したEPUBを、SigilやDreamweaverを利用して編集する方法を紹介しました。今後の展開を見据え、ファイル名・スタイル名および全テキストへのスタイル適用等、構造化を考えたデータ制作が必要と説明しました。
後半では、Adobe Digital Publishing Suiteを紹介しました。デジタルマガジン用の新しいソリューションで、現在、Adobe Labsでベータ版が公開されています。配信や販売、分析といったサービスに対して課金されることになりますが、日本での料金や開始時期、詳しいサービスの内容はまだ未定とのことでした。コンテンツ生成は無料なので、InDesign CS5ユーザーであれば是非ダウンロードして試してみてくださいとのことでした。

レポート:壱岐孝平的場仁利